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〔座談会〕教員の視点で振り返る医療短大 閉学後も「愛ある看護」をつなぐ

医療技術短期大学では、多くの同窓生が教員として後進の育成にあたっています。母校の閉学を前に、新村直子教授、千葉美果准教授、蔵本文乃准教授、吉田裕子助教に、学生時代の思い出や教員になってからのエピソード、コロナ禍での看護教育などについてお話しいただきました。

 

【出席者】
新村直子教授(1984年度入学)専門:在宅看護論
千葉美果准教授(1990年度入学)専門:基礎看護学
蔵本文乃准教授(1993年度入学)専門:基礎看護学
吉田裕子助教(1987年度入学)専門:小児看護学

付属4病院と連携した教育 「後輩を育てることも役割」

――初めに、入学当時の思い出を教えてください

蔵本 1年生が先輩や先生方と親睦を深めるオリエンテーション・セミナー(オリゼミ)は思い出深いです。2、3年生の実行委員が企画・運営するのですが、私はずっと委員だったので3年間参加しました。行きのバスで校歌を練習したり、静岡県の三保研修館でグループワークや運動会をしたり……。

千葉 オリゼミで同じ班だった子と仲良くなって、そのまま3年間一緒にいることが多いですよね。すごくピンポイントな記憶ですが、同級生が看護師のイラストを描いていて、何の気なしにナースキャップに赤十字のマークを入れたら、当時、看護学部長だった前田マスヨ先生に「うちは赤十字病院ではないからそのマークは入りません!」と怒られて(笑)。これから看護師になろうという学生だから、何もわかっていなかったんですよね。

新村 私の学生時代は寮があったので部屋着姿の子が教室にいたり、まだ教室にエアコンがなくて夏はすごく暑かったりといった日常の様子を覚えています。授業は今ほど演習が多くなかったので、先生たちが互いに採血する様子を見ていましたね。

吉田 私はとにかく不安で……勉強も必至についていく状態だったので、「本当に看護師になれるのかな?」と。国家試験に合格したときは本当にうれしかったけれど、今度は「看護師のユニホーム似合うかな?」という心配も出てきて、とにかくいつも不安でした(笑)。

 

――教員として医療短大に戻ってきたときは、どんな気持ちでしたか?

蔵本 自分が学生のころからいらっしゃる先生も多く、しばらくは学生気分が抜けませんでした(笑)。付属病院での臨床実習でも、指導してもらった看護師の方々にお会いするので、安心感がありましたね。

新村 私は20年近く臨床の現場にいたので、異動で教員になったときは正直「どうしよう」という気持ちでした。今担当している在宅看護は1997年度からカリキュラムに入ったので、自分は学んでいない科目。その分野の勉強から始める必要がありました。

千葉 履修していない科目は苦労しますよね……。私は最初、臨床とのスピード感の違いに戸惑いました。学生に演習の見本を見せるとき、現場の感覚でやっていたらほかの先生に「もっとゆっくり!」と言われて。学生が理解できる「見せ方」にするため、最初の1年は授業の事前準備が欠かせませんでした。

吉田 私は10年近く非常勤講師でしたが、医療短大が2021年度で閉学になると聞き、医療短大で教育全般を学びたいと考え入職しました。学生時代、「心温まる看護」を教えてくださった先生方は、看護師として付属病院で働いていたころも見守っていてくれました。仕事でつまずいたときには、医療短大での学びと思い出が支えてくれたので、私もそんな教員になれればと思ったのです。

 

――今年度は新型コロナウイルス感染症の拡大により遠隔授業が導入されるなど、先生方にとっても初めてのことばかりで大変な年だったと思います

新村 春学期は5月から始まり、オンラインでの遠隔授業を実施してきました。出欠を取る代わりに課題を出したり、「Teams」に動画をアップして説明したりと工夫しながら授業を展開してきました。コミュニケーションが取りづらい部分もありますが、対面授業ではなかなか発言しない学生がオンラインだとしっかり自分の意見を言える場面もあり、デメリットばかりではないのかなと。提出されたリポートを見ると、想像以上にしっかり自分の言葉で書いてくれています。

蔵本 秋学期は対面授業も再開しましたが、授業後にちょっと残ってグループワーク、という今までの流れは難しいので、その分「Teams」を活用するなど新しいコミュニケーションの形ができているように見えますね。こういった状況だからこそ、看護師に必要な“人と対話する”ことの大切さを実感してくれていると感じています。

吉田 コロナ禍で臨床実習ができない学校も多いのですが、付属4病院の方々からは、「どれだけ医療短大の卒業生がいると思っているの。後輩を育てるのも私たちの役割なんだから大丈夫!」と、とても心強い言葉をいただき、消毒や人数制限など感染対策を徹底したうえで、無事実習ができています。付属4病院全体で学生を育てようという、強い結びつきを実感しました。

千葉 学生の立場としても、指導担当の看護師から「私も卒業生なの」「あの先生知ってるよ」などと言われると緊張が和らいで、ぐっと距離が縮まる。私が看護師として大磯病院に勤めていたときに指導した学生が今、医療短大で一緒に働いている座波ゆかり講師で、「千葉先生に指導してもらったんです」と言われたときはうれしかったですね。

 

――残念ながら2021年度で閉学の予定ですが、学生に期待することや、医療短大の思い出をどのように未来へつないでいきたいかをお聞かせください

千葉 毎年5月に開催している同窓会の総会では、出欠用の返信はがきに昔の思い出や今の仕事内容、医療短大への思いをびっしり書いてくれる同窓生が多い。同窓会活動を続けてきてくださった先輩方のおかげであり、若い世代にもつなげていってもらいたいですね。ちなみに私は教員として医療短大に戻ってきた年に、学生時代の指導教員だった熊谷智子先生(元教授)から「あなたの仕事の一つはクラス会を開くこと。それを使命として受け入れなさい」と言われて(笑)、何度か幹事を務めました。

蔵本 付属4病院には先輩、同期、後輩がいて、安心して働けるとても恵まれた環境です。ただ、学生には一度外の世界にも挑戦してもらいたいですね。さまざまな価値観があることがわかり、強くしなやかな看護師に成長できると思います。

新村 閉学が決まったことを機にクラス会を開いたという話はよく聞きます。医療短大はなくなってしまうけれど、培った絆は消えないでしょう。医療業界は今、新型コロナの影響で困難も多いけれど、学生には医療短大で学んだことを糧に、それぞれの道で頑張ってもらいたいと思います。

吉田 同窓生として、教員として感じるのは、医療短大が「愛ある看護」「心温まる看護」をとても大事にしているということ。今日、この座談会の前が今学期最後の座学の授業だったので、私なりにこの理念を伝えようと、「愛」という言葉はあえて使わずにメッセージを送ったんです。授業が終わってレスポンスシートを見返したら、学生に愛ある看護が伝わっていると感じられて、「やった! 伝わった!」とうれしさがこみあげてきました。

新村 クラスの子たちは将来同窓会で、「あのとき吉田先生がこんな話をしていたよね」と振り返るんでしょうね。

蔵本 そういえば、戴帽式のときに配られた記念品のテレホンカードに「人間愛」と書かれていました。「愛」という言葉がさまざまなところにあふれている学校ということですね。

千葉 戴帽式といえば、学生が自分たちで考えた誓いの言葉を述べますよね。誰がどのパートを読むか考えて練習して……。だけど、ほとんどの学校は「ナイチンゲール誓詞」を読んでいたそうです。卒業してから職場で、「ナイチンゲール誓詞を読んだよね」という話になって、私一人だけ「え? 読んだっけ?」と(笑)。独自の教育理念を大事にして、同窓生に脈々と受け継がれてきたのだと感じています。

吉田 卒業した年が違っても、医療短大の教育は心に染み込んでいます。今は職場に同窓生の先生方がいますし、付属4病院に実習で訪問すると同期が指導していて、すぐ近くに母校を感じられます。閉学した後のことを思うと寂しいけれど、代をこえて集まる機会をつくっていきたいですね。

 

【同窓会会報かもめ(第34号/2020年12月20日発行)から転載】
※お詫びと訂正=上記会報の本記事中で、出席者の入学年度を誤って卒業年度として掲載してしまいました。お詫びして訂正いたします。(編集制作・東海大学新聞編集部)

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