私の逸品

【私の逸品】岩﨑 克也(東海大学建築都市学部長)先生

投稿日2024/2/7
(この記事は東海大学学園校友会『TOKAI 212号』から転載しています)
対象物を「黄金比」に分割し
調和のとれた美を生むデザインツール

古来より、あらゆる芸術の形態美は「比例」で規定されてきた。建築で言えば、建物の全体と部分、高さと幅、窓の間隔。そこに「1:1・618」の黄金比が織り込まれた建築物を、人は美しいと感じるのだ。その黄金比を生み出すためのツールが比例コンパスであり、中でもスイス製のコンパッソ・レオナルドジェニオは、加工精度とデザイン性の高さを両立した名品として知られている。私も駆け出しの建築家だった時分にこれを入手し、以来、多くの作品で比例の美を追求してきた。建築家としてのデビュー作といえる介護福祉施設でも、初めて自力でコンペを勝ち取った大学校舎でも、感覚的なデザインを厳密な黄金比に近づけるため比例コンパスを活用した。ピラミッドや桂離宮の例からもわかるように、黄金比の美しさは、表面的な装飾が失われても後世に残る。現代建築も同じで、たとえ装飾にかける予算がなくとも、比例を意識してプロポーションを整えれば美しい建築ができる。それを学生に伝えることも、プロフェッサー・アーキテクトである私の使命だろう。今後も建築家として美しく居心地のいいデザインを追求しつつ、作品を通して学生を鼓舞していきたいと考えている。



岩﨑 克也

東海大学建築都市学部長。東海大学大学院工学研究科博士前期課程(修士)修了後、株式会社日建設計入社。設計部長、設計ダイレクターアーキテクトを経て2020年より東海大学工学部建築学科教授、2022年より現職。新しい建築理論の構築と、それを形あるものにするデザインの実践に取り組んでいる。大田区特別養護老人ホームたまがわで東京建築賞「最優秀賞+東京都知事賞」(2001年)、港区小中一貫校・白金の丘学園でグッドデザイン賞(2017年)など受賞歴多数。

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