古来より、あらゆる芸術の形態美は「比例」で規定されてきた。建築で言えば、建物の全体と部分、高さと幅、窓の間隔。そこに「1:1・618」の黄金比が織り込まれた建築物を、人は美しいと感じるのだ。その黄金比を生み出すためのツールが比例コンパスであり、中でもスイス製のコンパッソ・レオナルドジェニオは、加工精度とデザイン性の高さを両立した名品として知られている。私も駆け出しの建築家だった時分にこれを入手し、以来、多くの作品で比例の美を追求してきた。建築家としてのデビュー作といえる介護福祉施設でも、初めて自力でコンペを勝ち取った大学校舎でも、感覚的なデザインを厳密な黄金比に近づけるため比例コンパスを活用した。ピラミッドや桂離宮の例からもわかるように、黄金比の美しさは、表面的な装飾が失われても後世に残る。現代建築も同じで、たとえ装飾にかける予算がなくとも、比例を意識してプロポーションを整えれば美しい建築ができる。それを学生に伝えることも、プロフェッサー・アーキテクトである私の使命だろう。今後も建築家として美しく居心地のいいデザインを追求しつつ、作品を通して学生を鼓舞していきたいと考えている。